A「牛方あ、雨の日は用心しなければなんなえ。藁で編んだ菰を荷につけだどしても、強く降られれば、菰ぐらいでは雨除けにもならないし、どうしても大木の下か、橋の下が一番だものなあ。」
B「そんだそんだ。雨の日もだが溜まり水もだよ。塩を流してしまっては大変だものなあ。又よ、山道でベコどうし、行きあったときも用心しなければならなえ。ワガサの強いのを持っていればだが、弱いど戻っか、よけっか、はね通ろうとするから、元気をつけてやらなければならなえ。」
A「俺もワガサの優れものを覚えている。水無の九才ワガサの評判は大したものだった。何と、ひとにらみされれば、ほかの牛は逃げ去ったもんだ。ワガサあ良いば、草場の一番良い場所をとるし、時ぃかけないで腹一杯にする。たいがい、牛溜まりは決まっていっから、なんぼ組が野宿したどしても、ワガサの弱い組は悪いところに追われて、腹さ一杯にせえねえものなあ。」
B「そんだ、そんだ。良いワガサは誰も離したがらないのは、それだけの稼ぎをしてくれるし、追うにも倍楽だからなあ。牛は馬と比べて歩きは遅いが、足元がしっかりしている。馬のように坂にかかればセカセカして荷崩れすることもないし、岩場で片爪かければ踏みはずさねえで歩く。それに馬と違って、野宿の場所も平地でなくくぼ地で狭い場所でも結構だものなあ。」
A「牛も馬も人より好きずきだと思うが、俺は牛の方を好きだ。昔は七匹も引けばいい牛方で、ワガサのいいのを持てなかったり、馴れねえ時は、仲追いとか後追いとかに付いたもんだ。それに見習い牛もつけて追うときもあり、たいがい雄牛で玉付コテイだった。雄でもおってサカリでもきたら大混乱でさ。一匹追いとか後追いの時あ雌も追ったさ。それからすると馬の場合は、たいがい雌であり、雄だら串抜きしたものを使ったものなあ。」
B「牛も賢いもんだあよ。一回歩いた道は決して忘れなえものなあ。馬もそうだが、どうしてか逃がしたりすると、間違いなく家の馬屋に帰ってくるもんだ。
また牧野に牛を放してもよ、月に一度は味噌か塩を舐めさせるわけだが、オーイ、オーイ、味噌だぞー、と呼ぶと飼い主だと判り遠くの山裾にいたのも、メエーと鳴いて、それを合図によ、互いに鳴きながら集まってくるものなあ。こうなればほんとうにめごいものなあ。」
A「まあ、牛も馬もだが、組を作って野宿したり、馬溜まりにいるもんだから、朝になっても集めやすいわけだ。あれは警戒心からだと思うが、大犬だの熊だの昔はいたもんだから、馬は外に尻を向け、牛は角を外に休むもんだ。牛の首に下げる鈴鐘は、その音で居場所を教えたと思うが、それだけではなえ。獣除けにもなったべあね。集まった牛さ口篭をかけてせあ、角さトモ網を絡むわけだあ。そして俺あごどあ牛ぐつを一日二足用意したもんだ。そこで三尺三寸の鞭棒で、ワガサに出発の気合いを入れんべあね。そせば、ワガサの後をゾロゾロと後牛が続くというあんべえに、なんあものなあ。」
B「さあ、ここらで牛方でも唄うがあ、俺あ創ったのをよ。」
♪大須賀でてから 小国で二日 十日かかって鹿角まで
♪小峠越せば 滑りの川に トヂ鐘響かせ谷渡る
♪苦労九曲り 卯坂の峠 卯坂過ぎれば角掛峠
♪野田塩ベコの道 野花の枕 あすの日和が気にかかる
♪雲の長嶺に 手が届く 平庭峠はベコの道
♪黒のワガサが 鼻鳴らし 習いの仔牛っ子を追ったてる
♪松鼻街道 朝つゆふんで 大鼻小鼻で朝日をおがむ
♪休むベココは 角掛峠 通るベココも勇みたつ
♪雨が降る時あ 谷川ほえる 牛方渡世の胸さわぐ
♪和佐羅比御山に あかねがさせば 雨も降るまい降られまい
♪夏の中津川 何よりこわい 牛の背赤が塩流す
♪かかあや待っていろ 野田ベコ追って 沢内せんべい買ってくる